駆け抜けた少女【完】
第六話*この瞬間が決め時
*
すっかり日が暮れた京の町屋。
人も疎らな中、矢央と以蔵は急ぎ足で帰路につく。
「あの、以蔵さん……」
「…………」
「あのね、以蔵さん……」
「…………」
「以蔵さん?」
「…………」
「……人斬り以蔵さー…ングッ!!」
叫んだ途端、口を塞がれてしまった矢央。
その相手は、もちろん"人斬り以蔵"こと岡田以蔵である。
以蔵は慌てて矢央の口を塞ぐと、辺りをキョロキョロと見回し素早く路地へと体を潜り込ませた。
「………ブハッ!」
「おまんは、阿呆かっ!! でかい声で、わしの名を呼ぶなっ」
「じゃあ、以蔵さん」
「…………」
「小さかったら、返事してくんないじゃんかーっ!」
「だぁぁぁっから、でかい声を出すなと言っちょろうがっ!」
少し矛盾している以蔵の行動に、矢央はプクッと頬を膨らませた。
そして、キッと以蔵を睨み上げる。
そんな矢央に、はあと盛大な溜め息を吐き出した以蔵は、「なんぜよ?」と、人がいないかを確かめながら尋ねる。
「ごめんなさい。 突き落としたりして」
「……別に怒っちょらん。 あん場合は、ああするしか逃げる方法がなかったきに」
新選組に出会した時、もう駄目だと以蔵は思っていた。
矢央を見捨てれば、一人なら逃げられるかもしれない。
しかしそれは、出来なかった。
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