駆け抜けた少女【完】


不安気に以蔵を見やり、以蔵もまた矢央を見つめた。

行き場のない二人は、ただ周りに流されるだけなのか。


「以蔵には此処に残ってもらって、矢央の用心棒をしてもらいたいぜよ。 桂さんには、わしから話をするきに」

「嫌だよっ! やだっ……絶対やだ!」


龍馬だと許せた心だが、何故か桂には許せない。

桂が嫌いなわけではなく、何となく関わりあいたくないのだが、矢央のわがままは聞き入れられない。


「だったら、決めるぜよ」


真っ直ぐ、矢央を見やる双眸。

矢央の細い肩が、ビクッと揺れた。


「おまんは、どちらにせよこの時代の波に呑まれてしまちょるき。 逃げることはできん。 それはおまんも、よお分かっているぜよ?」


確かにそうだ。

今更、この時代で普通に生きる術などない。

未来に戻る方法だって分からず、そしていつまでも揺れているわけにもいかないと、さすがに分かっている。


「わしらをとれば、新選組は敵ぜよ。 新選組をとれば、わしらは敵ぜよ……」


どちらにしても、どちらかが敵になると龍馬は言う。


矢央はグッと拳を握り、うっすら浮かぶ涙を流すまいとこらえている。


その姿を見て以蔵は、同情したように目を細め、気付かれぬよう息を吐いた。


まだ十六の、しかも女子。

普通なら血生臭いことに巻き込まれなくてもよいはずなのに、自分と同じように、そうするしか道がないのだと。


生きる場所が限られた、同じ境遇の少女を可哀想だと胸を痛めた。


「間島……」

「矢央。 わしらなら、おまんを守ってやれる」

「……っっ!」


矢央は、部屋を飛び出した。

直ぐに後を追うため立ち上がった以蔵の腕を、龍馬は掴み止めた。


何故止めるのだと、言いたげな以蔵に首を振る龍馬。


「発破をかけた。 矢央に今必要なものは時間でも仲間でもない。 目指すもの、目的が必要ぜよ」

「だったら、それを考えるためにっ……」

「そんな時間はない。 もたもたしているうちに、時代は早く流れ、矢央は何も残すことなく死ぬことになる」

「龍馬……」

「揺れたままの心では、何事も上手くいかんぜよ」


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