駆け抜けた少女【完】
飛び出した矢央は、行き場無く座り込んだ。
此処を出たとて、やはり此処に帰るか屯所に帰るかしか自分にはない
「お母さん……」
ふと母の名を呼んだ。
悲しいことがあると、母の温もりに包まれ泣いた日が酷く懐かしい。
あちらでは、自分はどうなっているのだろうか。
時代は矢央のいないまま動き続けているのだろうか。
だとしたら、それはきっとあの優しかった母を泣かせてしまったことだろう。
あの場所に、帰りたい。
父と母、そして祖父のいる、自分の世界へ帰りたい。
私の居場所は、此処じゃっないっ……!
川の流れにこのまま身を委ねれば、楽になれるかと、ふと馬鹿なことを考えてしまう。
プルプルと頭を振って、自分を戒める。
そんなことをして何になる?
死んだら意味がなくなると言ったのは自分自身ではないか、と。
「矢央ちゃん……」
背中にかけられた羽織りから、優しい香りがして、矢央は勢いよく顔を上げた。
そこにいたのは、母ではない。
「お龍さん……」
「隣いいかしら?」
どうぞ。と言う変わりに、座れる場所を提供すればお龍は笑みを浮かべ、矢央の隣に座った。
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