駆け抜けた少女【完】


だがしかし、お龍は言い続けた。


「馬鹿よ、馬鹿。 一途な、馬鹿。 理屈じゃないのよ、彼らの生き方は」

「お龍さん……」

「女が一途に男を想う以上に、男というのは己の思想を一途に追うもの」


一途すぎるが故に、死を招く。

「だから諦めるしかないわよ? 着いて行くと決めたなら、彼らの生き様を見届けるしかない。 それが、女としての私の覚悟」

いつか坂本がいなくなったとしても、一人で生き抜く覚悟をお龍は持っていた。


坂本の背中を黙って見守り、坂本の生き様をこの目で見届けようと。


「矢央ちゃんも、覚悟を決めなさい」


厳しいけど、優しさの籠もった言葉だった。

背中を押そうとするお龍に、矢央は小さく笑みを浮かべる。


「覚悟……か。 私は、みんながいなくなったら…生きていけるかな?」


自分のいた時代に戻れる保証がないから、もしかすれば新選組なき後、矢央は一人になるかもしれない。

辛いけど楽しかった日々を思い出に、生きていけるだろうか。

「帰りたいんでしょう? 本当は」


暫しの躊躇いのあと、矢央は素直に頷いた。

帰りたい。 新選組のもとへ。

しかしそれは、此処で世話になったお龍、龍馬、以蔵との決別を意味する。


「ぐずぐずしていたら、帰りそびれるわよ」

「……でも、待っててくれてるか分からないし」

「それは仕方ないこと。 矢央ちゃんから出て来たんだから、それから逃げるのは違うと思う。 女は度胸よ? 地に足を踏ん張りつけて、彼らの帰りを待つ。 そのためには、矢央ちゃんが帰らなきゃね」

「帰りを待つ?」

「そう。 家を守る女がいるから、彼らは安心して戦場に行ける。 そして帰りを待つ者がいると思えば、彼らは踏ん張って帰ってくる」


だからあなたも帰って、彼らの帰る居場所を守りなさい。

と、お龍は言った。


なんだが、靄がかかった景色が晴れていくような気がした。


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