駆け抜けた少女【完】
言葉を濁した山崎は、もう一度溜め息を吐くと
「とりあえず着いてきぃや」
と、矢央と共に歩きだす。
逆らうことなく着いてくる矢央に安堵したのは、己の胸の内にだけしまっておくとする。
暫く歩き辿り着いたのは、小さな酒場。
「失礼」
暖簾を潜り控えめ声で中に入って行く山崎、その後ろでパチパチと瞬きをする矢央。
なかなか入って来ない矢央に痺れを切らした山崎は、強引に腕を引っ張り中に入れた。
「早く、ついでに黙って着いてこい」
小さく、でも焦りからの怒気を含んだ山崎の声を耳元で聞いた矢央は、コクコクと無言で頷く。
いったい山崎は此処へ何をしに来たのか?
矢央が首を傾げたのとほぼ同時に、目的の部屋の前に着く。
「失礼しますよ」
と、一言告げた山崎は襖を開いた。
そして、またもや強引に矢央の腕を引っ張り室内へと押し込むと「では、俺はこれで」と、その場を後にしてしまう。
ピシャリと閉じられた襖を見つめて、唖然としていた矢央に誰かが声をかけた。
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