駆け抜けた少女【完】
衝撃的な永倉の言葉に、ゆっくりと顔を上げた。
永倉を見上げる矢央の双眸は、これでもかと見開かれて。
「お前と会ったあの日、屯所に戻るとお華がいてな。 何を考えてんのか、話をややこしくしやがって……」
「ややこしく…?」
「ああ。 副長達はお前を探していたが、さすがに長州の奴らと関わりがあるとまでは知らなかった。 だがそれを、お華が全てバラしちまってな」
長州の奴ら……。
ああ、桂小五郎と"ら"に含まれているのは多分、坂本龍馬と岡田以蔵のことを言っていると察した。
「今、お前は……脱走者扱いになっちまってる」
――――ビクッ!
新選組が脱走者に何をするか、それは捕まえ切腹か逃げれば斬る。
それを入隊時に土方や沖田から、耳にタコが出来るのではないかというほど聞かされた。
それは矢央に脱走者になってほしくないから、なのだが矢央は知らない。
「裏切り…者だと、思われてるんですね」
思われて当たり前だろう。
新選組の幕府の敵と関わっていれば、矢央の事情を知らない者達からすれば、やはり間者ではないのか(?)それか、寝返ったと思って当然だった。
しかし、分かっていても悲しくなる。
「逆だと思うぜ」
窓から入る夜風に前髪が靡く。
前髪の隙間から、ちらりちらりと覗かせる瞳は、何故か寂しそうに見えた。
永倉のこんな切なげな表情は初めて見たと、矢央は不安になった。
「お前を信じてやりたい。 だが、そんな想いを悉く邪魔されちゃ…。 信じたいからこそ、お前を取り戻したいと思ってんだよ」
.