駆け抜けた少女【完】
「俺は言ったよな。 入隊を決めた以上、どんな理不尽なことが起きようが辛いことがあろうが、此処から…近藤さんの側から離れるな、と」
ようやく思いだした。
永倉とした"約束"。
入隊を決めた時、永倉だけが反対し続けた。
それをはねのけても尚、矢央は居場所がほしくて入隊を決めた。
「お前は言った。 側で俺達を見守りたいと。 あの言葉は、あの日の覚悟は嘘だったのか?」
「違いますっ!」
永倉の切ない表情は、矢央を信じたい、だが信じるための確信が持てず苦悩する……そんな表情だった。
どんな時でも、永倉は矢央を信じてきた。
この時代に来た時、信じてもらえず不安に押し潰されそうになっていた矢央に一番に"信じてるよ"と言ったのも永倉だ。
「違うよ…っ。 本当に、みんなの力になりたい、側にいたい、恩を返したい。 そう思ったのは嘘じゃないです」
「なら、なんでだ? …なんで、こうなると分かって出て行った」
「…どうしようもなかったんですっ。 芹沢さんを手にかけてしまったのも、助けられたかもしれない人を助けらなかったのも、何もかも耐えられなかった……」
どうしようもない程に苦しかったのだ。
言葉では何と伝えればいいのかも分からず、誰にも打ち明けられなかった心情。
逃げ出したのは、そんな弱い己から逃げたにすぎない。
「みんなの側にいたかった…。 だけど、わ…たしが側にいると、余計な面倒までかけるし…。 怖かった…いつか、いつかみんなが……」
死んだらと思うと、心が張り裂けそうだ。
「矢央」
名を呼ばれ、顔を上げた刹那。
細い腕を引っ張られ、力を無くした体は永倉の腕の中にすっぽりと埋まる。
.