駆け抜けた少女【完】

ニヤリと笑い、挑発するような視線を向けられた。


矢央は肩の力を抜くと、ついでにと持ってきたお茶を差し出す。


「おや、気が利くね?」

「…以前ちょっとある人のお世話をしてたんで。 何となく、お茶飲みたい頃かなって」


芹沢や土方に、最初は気が利かぬ小娘と言われたことがあった。

それは、矢央が言われなければ行動できなかったからであり、そう言われたのが悔しかった矢央は土方や芹沢を観察した。


二人の行動パターンを知り、今何を欲しているのか分かるようになった頃に、矢央は新選組を去ったのだ。


「それは新選組かな?」

「まあ、そうですね」


桂は嫌な顔は一切しない。

気にしない気質なのか、顔に出さないだけなのか。


「そうかそうか」

「なんですか?」

「いやねぇ。 可愛い上に気が利くなんて、嫁に貰うには良いと思って」

「………」


冗談だと分かっていても、面と向かって言われると照れてしまう。

今は強がっている矢央だが、根は単純で素直な少女には変わりなかった。


「さあて、話はここまでにして。 本当に少し休みたまえ。 君此処へ来てから、殆ど寝ていないだろう?」


桂は湯のみを置くと、矢央の白い頬を手を伸ばす。

そっと指先で触れた箇所は、黒くなっていた。

寝不足により浮かんできた隈が、証拠だと言わんばかり。


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