駆け抜けた少女【完】

スヤスヤと気持ちよさそうに眠る矢央を一瞥し、桂はまたうむと唸る。


「だけど、憎めないんだよね。 どうしてだと思う?」

「……知るか」

「可愛い子は憎めないんだなぁ、これが。 可愛いだろ?」


話がずれ始め、久坂は更に眉を寄せた。

彫り深い顔に皺がより、強面になると桂は「すまない」と苦笑いだ。


「君は奥さん一筋だもんね。 聞いた俺が間違ってたよ」

「……ふんっ」


チャラチャラした桂と違い、久坂は愛妻家として有名で離れて暮らす今は、頻繁に文を送っている。


女子には妻以外全く興味がない久坂だからか、桂よりも矢央を見る視線はキツかった。

完全に疑っているのだろう。


矢央も久坂と初めて会った時に、向けられる敵意に気付いたが、仕方ないことだとも分かって耐えていた。



「……でもまあ、預かってしまった以上、信じてみるのもありかなってね」


いつも以上に笑みが深い。


そんな桂を見て、久坂は少し安堵した。


「坂本君との約束は、知られないように上手く事を運ばなきゃならないけど……」

「あの野良犬が厄介だな」

「ん? ああ、岡田以蔵? あれは……多分そろそろ…ね」


意味あり気に言う桂。


「転機を掴むきっかりは、今しかないさ」

「お前も、なかなか腹黒いな」

「機転が利くと言ってほしいものだよ」



―――動き始めた。

新選組の知らぬとこで、攘夷派の彼等は緻密な計画を練り、その機会は窺っている。


それが動き出すのは、もう少し後のことである―――……


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