駆け抜けた少女【完】
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新撰組は、本日も早朝から騒がしい。
朝餉の前に稽古をする隊士達を指導する沖田は、道場の騒がしさとは逆に黙って稽古指導をしていた。
剣を握らせると人が変わり、普段にこにこと穏やかな沖田が、まさに鬼のような怖さを発揮させるので
沖田が指導する時は、隊士達に緊張が走るのだが………
「沖田先生。 沖田先生っ」
木刀は握っているものの、壁に背を預け心此処にあらずな沖田に、一人の平隊士が声をかけた。
しかし無反応なので、再度声をかけてみた。
「沖田先生!」
「…っ。 えっ…? あ、な、なんですか?」
「なんですか?じゃないですよ。 今日は何処か具合でも悪いのですか? ぼーっとされていましたが」
遠慮がちに言った隊士に、ははっと笑って誤魔化そうとする。
「そうですか? 大丈夫です。 いやね、今日は天気がよくなりそうだと思ってね」
だから気にしないで。 と、稽古に戻るように指示を出した。
渋々稽古に戻る隊士に「素振り百回やってて下さーい」と、にっこり微笑む沖田。
鬼だ。
たった今まで打ち合い稽古をし、休憩かと思っていた隊士達は、沖田に声をかけた隊士を睨んだ。
鬼を起こすんじゃねぇよ、 と。
そんな風に思われているとも気付かず、沖田は道場を出て廊下に立った。
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