駆け抜けた少女【完】
「どこが良い天気になりそうなのかなぁ?」
そこへ腕をさすりながら朝稽古にやって来た藤堂が現れる。
今日も冷えるね、と前置きし先程の沖田の台詞にしらけた面を見せる。
空を見上げれば今にも雪が降りそうな天気ではないか。
沖田は「聞いてたんですか」と、苦笑い。
「総司は、あれだよね。 二つのことを考えるの苦手だろ?」
「二つというより、考えるのが苦手なんですよ」
今まで成るように生きて来た悪い癖だと、沖田は呟く。
「平助さんは、朝稽古とは珍しいですね?」
最近は寒さが増し、寒さに弱い藤堂は指南役ではない限りなかなか朝稽古には参加しなくなった。
珍しいを、やたら強調されて今度は藤堂が苦笑いだ。
「土方さんに怒られたんだよ。 ンなんじゃ、平隊士に負けるのも時間の問題だなってさ」
いや、参ったよ。と、ブルブル震えながら言うのでは、全く参ったようには見えない。
暫し沈黙が続き、先に口を開いたのは藤堂だった。
「お華ちゃんは、どうしてんの?」
なるべく触れないようにしていた話題だったが、やはり気になるのは仕方ない。
チラッと沖田を見やれば、沖田は笑みを消し門の外を見ていた。
「前川邸にいますよ」
「……そう。 なぁ、総司」
「なんですか?」
「総司は、お華ちゃんを信じるのか?」
新撰組の前に、ある日堂々と現れたお華は、今は近藤が前川邸で囲っていた。
あの日から姿を消すことなく、確かに存在しているお華。
毎日会いに行っていた沖田と違い、藤堂は少し距離を取る形だ。
何故なら、お華が言った言葉が今も引っかかっているから。
"彼女は長州側に寝返る"
本当にそうだろうか?
あの矢央が、新撰組を裏切るとは到底思えなかった。
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