駆け抜けた少女【完】
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――サァー…
前川邸の奥にある小さな部屋の襖がゆっくりと開く。
この部屋に陽の日差しが入るのは、一日に二度。
否、正確には日差しが入るのは日に一度だ。
朝餉と夕餉の時刻にだけ、お華は外の空気と触れ合える。
のはずだが、今日に限っては珍しく正午過ぎに日差しが入り込んで来たことに、お華はあまり驚いた様子はない。
「ずっと、そうやってるつもりか?」
それよりもこの部屋に来るのは近藤か沖田くらいなのに、この男が現れたことの方が驚きだった。
「歳さん…」
陽の光を浴びた土方は影のように見えて、よく見ようと目を凝らしていると
――サァー……トン。
明るさに慣れる前に、また闇に包まれてしまった。
土方は襖を閉めると、部屋の真ん中で座っていたお華の正面にドカリと腰を下ろす。
お華は、黙って土方が話し出すのを待った。
「……お華。 お前は、此処へ何しに来た」
もう幾度も考えた。
お華は新撰組の力になりたいと言うが、土方にはどうもそれが真実ではないような気がしてならない。
「何度もお話しましたが…」
「俺らの力になりたい、か。 ありゃ本心じゃねぇだろ?」
「……と、言いますと?」
「お前本当は、新撰組を無くしたいと思ってねぇか」
お華の顔色を窺う土方だったが、一向に顔色は変わらない。
というよりも、此処に来てからお華が以前のような少女らしい顔を見せただろうか。
土方の知るお華は、愛らしく、笑顔の似合う少女である。
妹のように可愛がり、お華もまた土方を兄のように慕っていた。
なのに今のお華は、どこまでも深い悲しみから逃げられず、苦しみ足掻いているようにさえ見えた。
いったい、この少女の本当の目的とは何なのか…………。
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