駆け抜けた少女【完】
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新撰組・観察方の山崎は、青く広がる空を見上げた。
一見見れば旅商人の山崎が背伸びをしつつ見上げたのは空ではなく、一軒の旅籠の窓である。
チラリと目線を向けた先にいたのは、窓からさり気なく外を眺める少女。
―――――矢央であった。
矢央もまたチラリと旅商人を見下ろした。
すると頭に被っていた傘の先を指で持ち上げ、にこりと笑いお辞儀される。
矢央は、それに対し無表情で頭を下げた。
山崎さんか……。
旅商人は歩き出し、少し行った先で角を曲がる。
「おい、どうかしたのか?」
背後から声をかけられた矢央は、何食わぬ顔で振り返ると笑みを浮かべる。
「何でもないです。 今日はお客さんが沢山来るなぁって。 あ、お茶入れ直しましょうか? 吉田さん」
吉田稔麿。 彼も桂同様に長州派で、旅籠・池田屋に身を潜めている。
少し怪しむ吉田だったが、コクリと頷いた。
吉田は細身の長身で、いつも無表情な男で、何を考えているのか分からないような男。
そんな吉田と出会ったのは、四月の半ばで、もう一月程前になる。
桂が暫く京を出ると言ったので、預けられたのがこの吉田だった。
桂と違い、無駄口を叩かない吉田といるのは割と心地よかった。
互いに深く関わらずに済むからである。
「はい、お茶です」
「…ああ」
先程から難しい顔で本と睨めっこしている吉田の背後に周り、何だろうと覗き込む。
――――カチャリ……
その刹那、首にギラリと光る刃が押し当てられ、矢央はゴクンと唾を呑む。
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