駆け抜けた少女【完】

「……死にたいのか?」

「……死にたくないっす」


睨んでいる吉田に、にへらと笑いかける矢央。

吉田は刀を下げ、本と散らばった資料を片付け始めた。


「お前を信用した訳じゃない。 桂や久坂も同じだろうよ」

「分かってますよ。 だけど、いい加減盥回しされるのに疲れましたっ」


緊張感のない奴だな、と吉田は呆れる。

いつでも首は斬れると脅したつもりなのに、矢央は頬を膨らましふてくされているのに頭が痛い。


「坂本さんの次は桂さん、桂さんの次は吉田さん。 いい加減落ち着きたいですよ」

「仕方ないだろ。 俺達ですら、今の京に落ち着ける場所などないぞ」

「落ち着きまくってるように見えますけど?」

「……貴様やはり死ぬか?」

「遠慮します!」


桂とは打ち解けることなく暫く別れることになった矢央だが、吉田とはそこそこ打ち解けている。

何故なら、吉田が少しある人物に似ていたからだ。



「たくっ…。 とんだお荷物を預けられたもんだ」


ブツブツとぼやき、矢央のいれたお茶を口に運んだ吉田は、一気に蒸せた。


「…っ! ゴホッ!ゲホッ! …き、貴様ぁぁっ」

「グフッ! やだなぁ、ちょっとした暇つぶしです!」

「よくも…。 俺で、暇を潰すなっっ!」


渋すぎるお茶を飲まされた吉田は激動し刀に手をかける。

矢央は、ヤバいと部屋を飛び出して行った。

吉田が後を追ってくることはない。

いつもそうだ。

この一月、矢央は大分ストレスを発散していた。

その相手は吉田で、今のような小さな悪戯を仕掛けて楽しむ。
最初は本気で殺されかけたが、最近ではそれはなく、最後に吉田が呆れて終わるのだ。


このような展開や、吉田の態度が、土方に少しだけ似ているような気がした。


土方さんなら倉に閉じ込めて一日ご飯抜きの刑だよねぇ。

懐かしさに浸りながら池田屋の入り口まで逃げて来た矢央に、ある人物が立ちはだかる。

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