駆け抜けた少女【完】

「久坂さん……」

ドンっという効果音が何処からか聞こえてきそうな迫力がある。

久坂は矢央の前に仁王立ちして、苦笑いする矢央を見下ろしていた。


「また吉田をからかったな?」

「あはは。 だって、暇なんですもん」


最近は坂本からの文を渡しに来ることがない以蔵と会えず、毎日難しい顔をした男達とばかりいる。

遊びたくても、遊び相手がいない状況で、ようやく見つけた暇潰しが吉田だった。


はあと息を吐き、額を押さえる久坂。

吉田をからかえば、後に必ず久坂に怒られる。

吉田が愚痴るからだろうなと、安易に想像ついた。


「そんなに暇なら、これを届けてこい」

「……へ?」


てっきり怒られるものだと思っていたのに、飛んで来たのは拳骨ではなく一通の文。

なんですかと尋ねると、


「内容は知らなくていい。 これを坂本に渡るよう届けてきてほしい」

「あ、もしかして桂さんから?」

「ああ…」

「分かりました。 では早速行ってきまーす!」


何とか怒られずに済んでホッとしながら、池田屋を後にした。


「寄り道はするな」

「分かってますよー」


ベーッと舌を出すと、久坂が拳を握るのが見えた。

.
< 491 / 592 >

この作品をシェア

pagetop