駆け抜けた少女【完】
「久坂さん……」
ドンっという効果音が何処からか聞こえてきそうな迫力がある。
久坂は矢央の前に仁王立ちして、苦笑いする矢央を見下ろしていた。
「また吉田をからかったな?」
「あはは。 だって、暇なんですもん」
最近は坂本からの文を渡しに来ることがない以蔵と会えず、毎日難しい顔をした男達とばかりいる。
遊びたくても、遊び相手がいない状況で、ようやく見つけた暇潰しが吉田だった。
はあと息を吐き、額を押さえる久坂。
吉田をからかえば、後に必ず久坂に怒られる。
吉田が愚痴るからだろうなと、安易に想像ついた。
「そんなに暇なら、これを届けてこい」
「……へ?」
てっきり怒られるものだと思っていたのに、飛んで来たのは拳骨ではなく一通の文。
なんですかと尋ねると、
「内容は知らなくていい。 これを坂本に渡るよう届けてきてほしい」
「あ、もしかして桂さんから?」
「ああ…」
「分かりました。 では早速行ってきまーす!」
何とか怒られずに済んでホッとしながら、池田屋を後にした。
「寄り道はするな」
「分かってますよー」
ベーッと舌を出すと、久坂が拳を握るのが見えた。
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