駆け抜けた少女【完】
活気ずく町を歩く。
京の町は一見穏やかに時間を進めているように見えるが、少し暗がりに入ればそうではない。
矢央は池田屋を出た時の笑みを消し、固い表情で辺りをキョロキョロとする。
「あんま挙動不審な行動は慎め。 そんなんやと、バレバレやで」
池田屋から大分離れた店の角を曲がったところで、久しぶりに聞こえた関西弁。
そちらを振り向くと、闇に紛れた山崎が手招きしていた。
「山崎さん!!」
「やから、騒ぐな」
飛び込んで来た矢央、山崎は慌てて口を押さえた。
コクコクと頷いたのを確認してから、そっと手を放す。
「お久しぶりです!」
今度は声を抑えた矢央に、山崎は小さな笑みを見せた。
「久しぶりやな。 その様子やと、元気にやっとったようやな」
「はい! 何とか上手くやってると思いますよ」
「そうか。 ええか間島、これは遊びやない。 バレたら…」
急に声のトーンを落とし、矢央の肩に手を置いた山崎。
「お前は確実に殺される。 絶対にバレたらあかんで」
「はい」
ほんの少し不安げな山崎に、安心させるため微笑む。
大丈夫。
与えてもらえたチャンス。
今度こそ、新撰組の力になるために矢央は失敗するわけにはいかないと、そう目で語っていた。
―――それは、まだ雪の降る冬のこと。
今より少し時は遡る。
.