駆け抜けた少女【完】

帰る決心がつくと、不思議なもので早く帰りたくて仕方ない。
いつも笑いあっていた、あの懐かしい場所へ。


山崎の手を取り、押し寄せる不安を払おうと、そのがさついた手をギュッと握り締めた。


「山崎さん。 私ね、自分が決めた道に、もう迷わないって決めたんです」


顔を上げた矢央の双眸を見つめる山崎は、その真っ直ぐな瞳に切なくなった。


少女の決めた道は、きっとまた少女を苦しめる。

だが迷わないと決めた少女は、この先、無理をしてでもその運命を辿って行くのだろうと。


「…そうか。 一つだけ教えといたるわ。 お前は、一人やない」

いつまでこの少女と共に歩めるかは分からないが、この手足が動く限り守ってやろう。


「お前には、新選組の仲間がついとる」


そう山崎は誓う。


「………はい!」


矢央は、やっと笑顔を見せる。

いつまでも此処にいるわけにもいかず、山崎は文に目を通した。

暫く黙って内容を読んでいた山崎は、小さく息を吐き文を元通りにしまう。


「何が書いてあったんですか?」

山崎から文を受け取り、その内容を尋ねてみたが山崎は首を左右に振った。


「今はまだ確信に繋がる内容やない。 ただ……」

「ただ?」


バサァと、強い横風が吹き、矢央の髪が宙をさ迷う。


「覚悟はしとくことや。 もうすぐ、とんでもないことが起こるかもしれんてな」

「とんでもない、こと……」

「早よう文を届け、池田屋に戻るんやで」

「はい。 あのっ…て、もういないし」


風のように現れ、また風のように山崎は姿を消した。

一人残された矢央は、文を懐にしまうと町の中に戻って行く。

.
< 495 / 592 >

この作品をシェア

pagetop