駆け抜けた少女【完】
帰る決心がつくと、不思議なもので早く帰りたくて仕方ない。
いつも笑いあっていた、あの懐かしい場所へ。
山崎の手を取り、押し寄せる不安を払おうと、そのがさついた手をギュッと握り締めた。
「山崎さん。 私ね、自分が決めた道に、もう迷わないって決めたんです」
顔を上げた矢央の双眸を見つめる山崎は、その真っ直ぐな瞳に切なくなった。
少女の決めた道は、きっとまた少女を苦しめる。
だが迷わないと決めた少女は、この先、無理をしてでもその運命を辿って行くのだろうと。
「…そうか。 一つだけ教えといたるわ。 お前は、一人やない」
いつまでこの少女と共に歩めるかは分からないが、この手足が動く限り守ってやろう。
「お前には、新選組の仲間がついとる」
そう山崎は誓う。
「………はい!」
矢央は、やっと笑顔を見せる。
いつまでも此処にいるわけにもいかず、山崎は文に目を通した。
暫く黙って内容を読んでいた山崎は、小さく息を吐き文を元通りにしまう。
「何が書いてあったんですか?」
山崎から文を受け取り、その内容を尋ねてみたが山崎は首を左右に振った。
「今はまだ確信に繋がる内容やない。 ただ……」
「ただ?」
バサァと、強い横風が吹き、矢央の髪が宙をさ迷う。
「覚悟はしとくことや。 もうすぐ、とんでもないことが起こるかもしれんてな」
「とんでもない、こと……」
「早よう文を届け、池田屋に戻るんやで」
「はい。 あのっ…て、もういないし」
風のように現れ、また風のように山崎は姿を消した。
一人残された矢央は、文を懐にしまうと町の中に戻って行く。
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