駆け抜けた少女【完】
「ふう……」
溜め息が風に流される。
何かが起こりそうな予感をひしひしと感じるのに、これ以上己には何か出来ないのかと苦悩する。
山崎や永倉は、無理をしなくていいとは言われていたものの、このまま新選組のもとへ帰ってもいいのかと思う。
もう一度、半裏切り行為をした己を受け入れてくれるのか不安で仕方なかった。
それでも―――……
「帰りたいよ……」
と、切に願った。
「ならば、帰ってくれば良かろう」
「へっ?」
池田屋を出て人気ない場所で、うずくまっていた矢央。
そんな矢央の独り言に返事が返ってきて、慌てて辺りをキョロキョロと見回している。
すると、もう一度声がして。
「何処を見ている。 後ろだ」
「……斉藤さんっ?」
「……久しいな。 間島」
ようやく存在に気づいてもらえた斉藤は、矢央の隣に立った。
浅葱色の羽織りを羽織っており、どうやら巡察中らしい。
「斉藤さん! だっ、大丈夫なんですかっ?」
「何かがだ?」
「えっ、だから…。 こんなに堂々としてたら……」
いくら人気がないとはいえ、いつ誰に見られるか分からないのに、堂々と会ってもいいのかと慌てる矢央と違い、斉藤は落ち着いている。
「大丈夫だ。 気配は感じない」
「はあ…。 そうですか…」
会話が終わってしまい、変な緊張感が漂う。
斉藤と最後に会ったのは、新選組の屯所を出る前なので、かなり久しぶりになる。
新選組を出て行った己を、斉藤は怒っていないのだろうか。
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