駆け抜けた少女【完】

「あの……。 さっき、帰ってこればいいって…」


隣で腕を組んだまま、何もするわけでもなく立ち尽くしている斉藤を恐る恐る見上げた。


いつも無表情な斉藤だが、今は後ろめたさがあるからか、怒っているようにしか見えなくて尚恐ろしい。



ビクビクと肩を許す矢央に視線を落とした斉藤は、ゆっくりと口を開き言う。


「帰りたいと思うなら、帰ってこればいいと言ったまで」

「……でも」

「お前は、己の道を決めた。 ならば、もう迷う必要はないはずだ」


まるで全てを見てきたかのような台詞に、目を見開く矢央。

斉藤は、全て知っているのだろうか。


「これからは観察方の仕事になる。 お前がこれ以上踏みは入れば危険が及ぶだろう。 ……そろそろ退き際だ」

「斉藤さん、もしかして私のこと」

「知っているも何も、こうなるように仕向けたのは俺だからな」

「ええっ!?」


斉藤は話した。 矢央の居場所を知った己が、山崎に極秘で探るように指示をし、

そして、矢央が新選組に戻りたいと言ったなら、永倉に会わせ最後の選択をさせる。


「じゃあ、全部斉藤さんの考えたことだったんですか」

「ああ。 少なからずお前を追い込んだ責任はあると思っている。 俺にしてやれることは、お前に自信を持たせてやることくらいだろうとな」


長州側の情報を探るのに矢央に危険が及ぶが、危険が及んでも情報を手に入れられれば、矢央が帰ってきやすくなる。

斉藤は、何もしないで帰られる程、矢央の神経は大きくないと思ったのだ。


「お前のおかげで、ある程度情報は掴んでいる。 あとは、騒ぎが起こる前に新選組に戻り、心配している奴らに安心させてやれ」

「……いいのかな。 本当に帰って…いいのかな?」


斉藤は十分だと言うが、矢央自身は手柄を立てたようには思えない。


.
< 498 / 592 >

この作品をシェア

pagetop