駆け抜けた少女【完】
「あの……。 さっき、帰ってこればいいって…」
隣で腕を組んだまま、何もするわけでもなく立ち尽くしている斉藤を恐る恐る見上げた。
いつも無表情な斉藤だが、今は後ろめたさがあるからか、怒っているようにしか見えなくて尚恐ろしい。
ビクビクと肩を許す矢央に視線を落とした斉藤は、ゆっくりと口を開き言う。
「帰りたいと思うなら、帰ってこればいいと言ったまで」
「……でも」
「お前は、己の道を決めた。 ならば、もう迷う必要はないはずだ」
まるで全てを見てきたかのような台詞に、目を見開く矢央。
斉藤は、全て知っているのだろうか。
「これからは観察方の仕事になる。 お前がこれ以上踏みは入れば危険が及ぶだろう。 ……そろそろ退き際だ」
「斉藤さん、もしかして私のこと」
「知っているも何も、こうなるように仕向けたのは俺だからな」
「ええっ!?」
斉藤は話した。 矢央の居場所を知った己が、山崎に極秘で探るように指示をし、
そして、矢央が新選組に戻りたいと言ったなら、永倉に会わせ最後の選択をさせる。
「じゃあ、全部斉藤さんの考えたことだったんですか」
「ああ。 少なからずお前を追い込んだ責任はあると思っている。 俺にしてやれることは、お前に自信を持たせてやることくらいだろうとな」
長州側の情報を探るのに矢央に危険が及ぶが、危険が及んでも情報を手に入れられれば、矢央が帰ってきやすくなる。
斉藤は、何もしないで帰られる程、矢央の神経は大きくないと思ったのだ。
「お前のおかげで、ある程度情報は掴んでいる。 あとは、騒ぎが起こる前に新選組に戻り、心配している奴らに安心させてやれ」
「……いいのかな。 本当に帰って…いいのかな?」
斉藤は十分だと言うが、矢央自身は手柄を立てたようには思えない。
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