駆け抜けた少女【完】
不安を隠せない矢央を見かね、斉藤は言う。
「新選組の一部は、お前のことで荒れたままだ。 お前が不安なように、奴らも不安や戸惑いが生まれている。 帰ると決めたならば、まだ仕事は残っていると思うが」
「私に出来ること……」
斉藤の言葉は淡々としているが、普段無口な斉藤にしては良く話す。
それは矢央に対する、斉藤の最大限の優しさであった。
「早く顔を見せてやるといい」
「……ありがとうございます」
帰っておいでと直接言われたわけじゃないが、帰ってこいと言ってもらえたようで嬉しかった。
帰っていい。
新選組のもとへ、皆のもとへ、ようやく帰ることが出来る。
その喜びに、矢央は涙した。
斉藤は、まだ巡察中というのもありその場一人で去った。
矢央にも帰る前に、一目会って起きたい人がいた。
斉藤は、それが誰なのか薄々分かったが黙っていた。
矢央には、矢央の考えがあるのだからと。
「もう……会えなくなるのかな」
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