駆け抜けた少女【完】
それはまるで御神木が少女に語りかけるよう。
ゆらゆらと揺れる桜を見つめているうちに、真っ黒な瞳がスーッと灰色に染まる。
お願い……。彼らを…助けて……。
彼らとは?
脳に直接伝わる澄んでいて、しかしとても哀しい声色。
「彼らって……誰のこと?」
ふと気になったのは、そこにだけ固められた桜のはなびら達。
何故此処だけ風で乱れることがないのかと不思議だった。
少女は好奇心に導かれるように、その地に手を触れた。
「なんだろう? 此処だけ掘り返されたみたいな…」
何も考えずに掘ってみようと土を素手で掻き分けていく。
そこだけ柔らかいのが、また謎。
あっさり掘れてしまった穴の中にキラッと光った"ソレ"を見つけ出した少女は、片手を穴に差し入れ光る物を掌に乗せた。
「綺麗……」
宝石のルビーのように鮮やかな赤の色をした石を、少女は懐かしむように見つめた。
ーーーーー懐かしい……。
何故懐かしいと思うのか、また不思議だ。