駆け抜けた少女【完】
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矢央は斉藤と別れた後、そのままある場所までやって来た。
入るのを躊躇って、何度も同じ場所を行ったり来たりしていると、中から会いたかった人物が出てきた。
矢央を呆れたように見ながら、
「おまんは、さっきから何をやってるぜよ」
岡田以蔵。
矢央が屯所に戻る前に、どうしても会っておきたかった人である。
苦笑いを浮かべていたのはちょっとの間で、矢央の眉は次第に垂れ下がる。
見る見るうちに、瞳に涙を溜める矢央を見て、以蔵は矢央を己の部屋へと連れ込んだ。
「何があったぜよ?」
まさか桂や吉田に何かされたのかと、以蔵は心配する。
だが、以蔵の不安は次第に焦りと怒りに変わるのだった。
「……ごめんなさい。 私、新選組に帰ります」
そう打ち明けた時の以蔵の顔は、まるで幻を見ているかのようだった。
信じられない。 そう顔に書いてある。
「事情は言えないけど……。 やっぱり私の居場所はあそこなんですっ。 だからっ……」
「何故だ……。 おまんは、あの時…新選組に追われた時、わしを助けてくれたぜよっ。 おまんは、わしらに仲間になると言ったぜよっ!」
あれは嘘だったと言うのか、と以蔵は矢央の肩を揺さぶる。
だが事情は話せない。
矢央は必死に耐えた。
「新選組は、おまんを傷付けるだけだと龍馬が言ってたぜよ。 そんな場所に帰っても、利用されるだけじゃないんか!?」
「そうかもしれない。 受け入れてもらえるかも分からない。 だけどっ……、やっぱり私の居場所は新選組なのっ!」
「や…お……」
「以蔵さんや坂本さんとは、ほんとはずっと一緒にいたいっ。 私は、以蔵さん達となら友達になれると思ってたし、今でも友達……」
「……おまんは、友でも仲間でもないぜよ」
「…い…蔵…さんっ」
矢央の肩からズルッと重みが消えると同時に、これまで築いた友情も消えていく。
以蔵は畳を見つめ、拳を打ちつけた。
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