駆け抜けた少女【完】
「おまんは、分かってるかが。 新選組と、わしらは敵同士じゃ!? そんな場所に帰りたいとぬかすおまんをっ…友とは…言えんっぜよっ」
ギリッと口を噛むと、血の味が口内に広がった。
悔しくて、悲しかった。
矢央と出会い、以蔵は少し変われた。
頼るものがなくなり、一人になった己と似た少女。
側にいる内に、己の苦しみを少しずつ癒やしてくれたのは、目の前で憎く歪んでいく少女。
「おまんは、龍馬を裏切るつもりなんか…?」
「……っ……」
裏切りたくない。
でも、新選組に帰るということは裏切るということ。
矢央は何も言えず、ただ涙を流す。
「……行け」
「い…ぞ…さん?」
矢央に背を向けた以蔵は、腰にあった刀に手を翳す。
小刻みに震える手は、必死の思いが込められていた。
裏切るものは誰であろうと斬るべきだろう。
矢央は、こちらの事情を多少なりと知ってしまっているのだから、そうするのが当然。
「早よう行くぜよっ! おまんの顔など見とうないきっ。 とっととわしの前から消え失せろ」
だが、以蔵には矢央を斬ることなど出来ない。
己を癒やしてくれた、己が好意を寄せた少女を血に汚すなんて、とても出来るものではなかった。
本当は側にいてほしい。
いっそ縄で縛り付け、部屋に閉じ込めしまえばいいとさえ考えた。
しかし、やはり出来なかった。
「……以蔵さん…。 私っ…、以蔵さんにも坂本さんにも、いっぱい感謝してますっ」
「………」
鼻を啜る音に胸が痛む。
泣きたいのはこっちだと、つい口から出そうになる。
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