駆け抜けた少女【完】
久しぶりに歩く屯所の廊下。
春から夏へと色を変えた庭を見ていたのが懐かしい。
秋から冬への移り変わりが見られなかったのが、とても残念だと思う。
「あの桜、綺麗だろ」
屯所の庭に一本だけ立つ桜の木を見て、永倉がわずかに笑みを浮かべた。
もうすぐ春の終わりを表すように、桜の花弁がひらりひらりと舞っては小さな池にぽつりぽつりと浮かんでいる。
「二回目も見られて良かったです。 もう見られないかもと思ってたから」
「そういや、矢央が此処へ来たのも春だったっけかな。 早いもんだ」
「はい。 あれからもう一年以上経つんですよねぇ」
この一年、色々なことがあったと二人は思い返した。
暫く桜の木を眺め、また歩きだす。
彼、新選組一の鬼と恐れられる副長・土方歳三の部屋へ。
「土方さん、俺だ。 ちょっといいかい?」
開け放たれた障子戸から部屋を覗くと、羽織りを脱ぐ土方が永倉に顔を向けていた。
どうやら丁度外出先から帰ってきたばかりのようで、土方も最近報告の時以外は顔を合わせなかった永倉が訪ねてきたことに少し驚いている。
「永倉か。 どうした?」
刀置きに大小の刀を丁寧に置いた土方は、文机に背を向けて腰を下ろした。
顔を上げ永倉を見ようとした土方の視界に、意外な人物が入り込み更に驚いた土方。
「……お前は……」
「お久しぶり…です。 土方さん」
半年ぶりに顔を合わせた土方と矢央は、互いに見つめ合ったまま暫く黙ったまま。
永倉は、矢央を部屋の中に押し入れ座らせると、自らもその斜め背後に腰を据える。
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