駆け抜けた少女【完】
怯えさせてしまったとわかると土方はため息をつく、整いすぎた顔のため黙っていると怖い。
その上、常に考え事をしているせいで眉間に皺を寄せてしまうのが、今では癖になりつつある。
大人の女からすれば、その渋さが魅力的ととれても、少女である矢央にはちょっと近寄り難い。
「嫌いなわけあるか……。あいつは、俺らにとって光だったんだよ」
「光……ですか?」
「総司やお華がまだ小せぇ時から、俺や近藤さんは見てるし。 お華は、唯一俺らの夢を馬鹿にせず聞き、背中を押してくれた女だ」
そう語る土方の表情は、まるで親が自慢の子の話をするように穏やかな表情で。
やっぱり、土方にとっても大切な存在だったのだと知る。
だけど、お華がみんなにどれだけ想われているか知れば知るほど、一つの感情が芽生える。
「私……似てるんですよね?」
初めて沖田と会った時も悲しげで、けれど愛しいものを見る眼を向けられ。
山南も永倉も藤堂も、また同じ眼で自分を見ていた。
彼らが見ているものは、自分を通して見るお華ではないのかと思うと、何だかやるせない。
「もとの時代に帰りたい……」
「…………」
土方は、ただ黙ったまま小さな背中を見つめていた。
「あっちには私の家族がいて、きっと心配してくれてる……」
こちらには知らない人ばかり、その上自分は疑われる立場でしかない。
父や母、祖父に可愛がられ育った矢央には、知らない時代でたった一人という環境が寂しくて不安で仕方ない。
膝を抱えてうずくまる矢央の隣に土方はしゃがみ込むと、こほんと一つ咳払いする。