駆け抜けた少女【完】
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満月が薄雲に覆われた頃、新選組屯所にて男達の帰りを待つ矢央の下にその情報が入る。
「池田屋が本命やった」
体に障るから部屋で待ちなさいと山南に言われたが、矢央はあれからずっと縁側に立ち祈り続けていた。
そこへ山崎が現れ、
「土方君の読みが外れましたか。 それで、土方君への伝達はどのように?」
「今すぐに俺が参ります。 が、局長達は僅か十名で約二十名余りと戦っているので……」
「それは、危険ですね」
危険とは、怪我まとは死者が出る恐れもあるということである。
それを聞いてしまった矢央は、部屋に飛び込み押し入れから袴を取り出すと慌てて着替え始める。
「矢央君! 何をする気ですか!?」
キュッと紐を固く締めた矢央は、とすとすと二人に向かって歩いてくる。
「矢央…お前……」
「山南さん、山崎さん、私……みんなのとこへ行きます!」
「なっ! その体で何を言ってっ 第一刀を扱えない君が行ってどうなるのですっ?」
「私はっ…」
ぐっと顔を上げ、山南を見つめる矢央。
迷いのない双眸。
「私は、私にしか出来ないことをしに行くんです」
「まさか……」
「私は救護隊です。 なんのために、土方さんが私を救護隊に入れたのかくらい分かってるから……。 だから、行かなきゃいけないんです!」
そして山崎を見て、こう言った。
「組長、私を池田屋まで案内して下さい」
「……ほんまにえんやな?」
山崎は観察方以外に、新たに作られた救護隊の組長にもなっている。
普段は山崎さんと呼ぶ矢央が、この時は組長と山崎を呼んだ。
それはつまり新選組に匿われる少女としてではなく、新選組一隊士として出陣する覚悟があるという意味だった。
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