駆け抜けた少女【完】

「今こそ、力になれる時だと思いますから」


迷いなく頷く矢央を見て、山崎は上司としての覚悟を持って命令した。


「わかった。 せやけど、死んだらあかん。 俺が副長らを呼んでくるまで救護に当たる、これは命令や」

「………はい!」

「ほな行こか」

「待ちなさい」


躯を返した山崎と、その後についた矢央は山南の制止に戸惑った。


山南は暫し待てと残し何処かへ消え、暫く経って戻って来ると、その手に一本の刀が握られていた。


何かと見ていると、少々小ぶりな刀を矢央に手渡す。


「これは、君に合わせて誂えました。 出来るならば、これは使わないでいてほしかったですが、君の意志は堅いようですね」

「え、山南さんが?」

「いいですか? 君は護身術を嗜んではいるようですが、剣術に関しては素人同然。 ですから、これは護身用に持っていなさい」


刀を抜くように指示をされ、矢央は初めて鞘から抜いた。


ギラリと輝く白刃に、ゴクリと生唾を呑み込んだ。


「相手が斬りかかってきた場合、刀を真正面に構えるだけでいい。 その際は脇をちゃんと締めること。 多少は攻撃から身を守れます」

「は、はい!」


庭に下りて構えていた矢央は、刀を鞘にしまい大きく頷いた。

その頬に冷たい手が触れる。


「山南さん?」

「己の身があってこそ、守れるのですからね」

「……はい」

「では、気をつけて。 山崎君、宜しく頼んだよ」

「御意」






闇に消えて行く若い背中を見つめる山南。


これで良かったのだろうかと、手を握り締める。



「若いが故に勿体無いのだよ」



薄雲から顔を出した満月が、やけに悲しく見えた――――


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