駆け抜けた少女【完】
「何も全て疑っちゃいねぇよ。ただな、お前を此処に置くと決めた以上何らかの方法をとらねぇと、近藤さんの示しがつかねぇんだ」
今現在、壬生浪士組は近藤だけのものではく、もう一つの芹沢一派もいる。
もう一人の局長芹沢鴨は、相当暴君で何かと近藤達も手をやいているのだ。
その中に少女をただ置くだけでは、近藤の示しがつかない。
本当は信じてやり、少女を受け入れてやりたいとは思っていても、今はそれが無理だった。
「近藤さんの良心に感謝しろ。お前を安全に匿うためだ」
「それ、答えになってない……」
「あ?」
膝から顔を上げ、ブスッと膨れた顔を覗かせる。
「私は未来に戻りたいって言っただけで、何も疑われることをですねぇ……」
ごにょごにょと口ごもり、夕日に染まった赤い顔を土方から背けた。
「もとの時代への戻り方なんか俺が知るか……
それは、自分で調べるんだな」
「そうですねぇ……」
「ただそれまでは…」
矢央の頭がズシッと重くなり、(?)を浮かべ上に目をやると、土方の手が乗っていた。
数回ポンポンとすると、直ぐに離れていったが……
その手が離れた後も、矢央の胸はほわり温もりに包まれていた。
「それまでは、此処がお前の居場所だと思えばいいだろぉが」
「…………はい」
鬼のように鋭い眼光と、鬼のように冷酷な態度で知られる副長の土方歳三。
だが本当は人情溢れた優しい男だと知り、矢央は照れくさそうに微笑んだ。