駆け抜けた少女【完】
この場には二人しかいなかったはずなのに、この女はなんだと。
「惣司郎君っ! 惣司郎君っ!」
「…お…はな…どう…して」
倒れた沖田の頭を己の膝に落とし、真上から覗き込む。
温かく居心地の良い場所で、沖田は思ってしまった。
もしかしたら、迎えに来たのだろうかと。
己が死へと追いやった少女が、己を地獄へと迎えに来たのかもしれないと。
「もう止めて。 これ以上戦えば、あなたは……」
ポタッと、頬に滴が落ちる。
不思議と咳が落ち着き、ようやく冷静さが取り戻った。
「どうでもよいが、どうやら…先も長くないようだ……」
お華の背後から黒い気配がひたひたとやってくる。
―――カチャリ…
「女諸共死ねぇぇっ!!」
―――グサッ…
「…………っ…あがっ!」
吉田の体が、ゆっくりと後ろに倒れて行く。
お華の肩を抱き寄せ庇いながら、沖田は吉田の腹へと剣を突きつけ貫いた。
沖田の刀事、バタンと倒れた吉田は、まだ僅かな息を繰り返していた。
「ほんっとに…はっ…はあはあ…しぶといなぁ…」
「そのままにしていれば、彼は直ぐにあの世に行く。 惣司郎君が、その手を汚す必要はないわ」
「汚す……。 お華、私の手は…既に汚れています」
息を乱しながら留めをさそうと立ち上がる沖田へ、お華は制止の言葉を言うが
沖田は表情を悲しげに歪め、そして腹に刺さっていた刀を抜き、吉田の心臓目掛け振り落とした。
吉田稔麿、池田屋にて死去。
こうして血に濡れた夜は終わりを迎えるかに思えた。
が、まだ終わらない。
「沖田さんっ、お華さんから離れてっ!」
まだまだ、終わらない。
矢央達にとって、更なる試練が待っていたのだった―――
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