駆け抜けた少女【完】
第三話*さようなら
沖田は戸惑いに揺れていた。
先程まで己が倒れていた場所にはお華がいて、反対側の階段の所には矢央がいる。
二人の間で、交互に姿を視界に留め眉を寄せた。
「沖田さん、お華さんから離れて下さい」
「や…おさん?」
「総司っ!」
ドタバタと階段を上がってくる数名の足音。
先頭に立つのは、遅れてやって来た土方だった。
「矢央! お前は勝手にっ…」
「これは一体どうなっている」
「土方さん、それに永倉さんや斎藤さんまで…」
矢央を追いかけて来た永倉と、土方を追いかけて来た斎藤までも合流し、この不思議な状況に戸惑っているようで。
しかし土方だけは、
「総司、こっちへ来るんだ」
と、矢央同様にお華から離れるように指示を出す。
訳が分からず、俯いたままのお華に目をやった沖田だったが突然闇に包まれたかのように辺りは真っ暗になった。
「な、なんだこりゃっ!?」
慌てる永倉に斎藤は「落ち着け」と一声かけた。
真っ暗で何も無い無の空間に立たされ、矢央は歯を食いしばる。
「此処は……お華さんの心の中です。 私とお華さんが、最初に出会った場所」
「は? じゃあ、池田屋じゃねぇのか?」
「…池田屋と言えば、池田屋ですね」
矢央は至って冷静に、闇の中で唯一光に纏われたお華を見た。
冷たく歪んだお華の闇の空間。
「……どうして分かってくれないの」
お華が、涙を流す度に闇はより深さを増していく。
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