駆け抜けた少女【完】
「お華…てめぇは、もう死んだんだ」
非現実的な状況下においても、新選組副長は至って冷静さを保っていた。
止め処なく涙を流すお華に、一歩、また一歩と歩み寄る。
「いつまでも、俺たちに…総司にしがみついてんじゃねぇよ」
「私はただ…見たくなかった。 これから起こる悲惨な出来事を…あんなにも悲しく寂しい、彼の未来を現実にしたくなかった」
幼い頃から見えていた未来、お華はその未来を受け入れるなんて、見逃すなんて出来ないと思いながら生きてきた。
己の愛した人の寂しい最期を知り、どうにかそれが現実にならずにすむようにと。
「お華……」
「惣司郎君は新選組になってはいけなかったのよ……。 歳さんも分かるでしょ? 彼の体は……」
「止めろっ!」
沖田は震える拳を握り締め叫ぶ。
それ以上の言葉を口に出してほしくなかった。
己自身が避けたかった現実を、まだ受け入れたくない現実を。
「…新選組は近藤さんの夢です。誇りです。 私は、後悔などしない。 近藤さんの行く道が、私の行く道なんです」
例えそれが茨の道だとしても。
お華の双眸が見る見るうちに色を無くし、何を見ているのかすら分からない程に灰色に染まる。
矢央の胸が、ズキッと痛んだ。
これはお華の痛みだろうと、心が傷つく度に苦しくなる。
「君が、私の体を思ってくれるのはとても嬉しい。 ですが、これは私が選んだことです」
「そんなこと…認めない。 私はずっと、ずっと……あなたの幸せだけを望んできたのに」
だからこそ、沖田を庇い死ぬことも苦じゃなかった。
もう会えなくても、存在に気付いてもらえなくても、沖田が無事に生涯を終えてくれるならばと。
その想いを、矢央に託した。
「ダメ…お華さん…そんなこと絶対ダメだよっ!?」
「矢央、急にどうした?」
黙っていた矢央が急に、息苦しそうに叫ぶので、皆、腰の刀に手を翳した。
「空気が変わった」
斎藤の言う通り、悲しみ染まった空気が邪の空間に染まり始める。
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