駆け抜けた少女【完】
―――ドタバタ…ッ!
「新八ぃぃ! 何処にいるんだ!?」
頭に響く怒鳴り声に、永倉は耳を塞ぎ頭を振るう。
あ〜、ウザイのが来やがった。
「新八! お前、怪我しやがったなぁっっ!」
いつの間にか池田屋へと戻って来ていた矢央たちのもとへ、階段を駆け上がって来た原田が飛び込んでくる。
体重に任せ、永倉は押しつぶされた。
「さ〜の〜……死ぬっ」
「あ゛ー! 死ぬんじゃねぇ!」
「駄目……。俺、死んだから」
「新八――――――っ!」
先程までの出来事が、まるで全て幻のようにいつもと変わらぬ状況に、矢央は笑った。
ポンっと、頭に手が乗り、意識をその主へと向ける。
「ほら、ぼさっとするな。 救護隊の仕事が多く残ってるぜ」
土方は調査のため近藤のもとへと向かい、斎藤も後に続いた。
「コホッコホッ…」
「沖田さん、お薬と白湯を用意してきますから待ってて下さいね」
咳き込む沖田を見て、切なげに揺れる瞳。
沖田をその場に座らせ、土方に去り際に渡された薬を先に手渡した。
「すみません」
手の中にある薬を見て、たまらない気持ちを抱えた沖田は、誤魔化すように笑うしかなく。
「ほらっ! 永倉さんも、手の傷と足の傷が開いちゃう前に山崎さんに診てもらって下さい!」
矢央もまた、誤魔化すように気丈に振る舞った。
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