駆け抜けた少女【完】


―――ガシャンッ!

―――キンッ! カキィンッ!


以蔵は逃げる。

数人に追われ、路上に物を転がし、時に剣を交えながら逃げる。



「岡田以蔵っ、観念しろ!」

「くっ! 誰が観念するぜよっ!」



このままでは捕まってしまうと危機感に襲われた以蔵は、危険と分かりつつ表通りを目指した。


表通りに出れば、今日は祇園祭で人が沢山いるのだから、中に紛れ逃げられるかもしれない。


捕まりたくない。

捕まった後、己が辿る運命は安易に想像ついた。

龍馬からの情報で、仲間たちは次々に捕らえられていると聞いている。

酷い拷問を受けているとも聞いた。


わしはアホじゃっ。 じゃが、全て武市さんのためを思って―…仲間じゃと、頼りにしちょると言ってくれたから……!!


だから、人を斬ってきた。

言い訳かもしれないが、悪いと感じつつも、あの時の以蔵には武市が全てで、武市に喜んでほしくてしていたのだ。



「わしゃあっ、悪ぅないんじゃっ!」


タダをこねる子供のように叫びながら、表通りを目指してひたすら逃げる以蔵。


賑わう表通りは、もうすぐそこだ。

楽しそうな子供の甲高い笑い声がし、薄暗い路地に少しだけ夕日が差している。



手を伸ばした。

薄汚れやせ細った手に、ぱぁっと明かりが浮かぶ。



もう少しだ―――――……


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