駆け抜けた少女【完】


逃げ切ってみせる、はずだった。

逃げて逃げて逃げて、必ずまた再会できると思っていた。


頼もしい龍馬と、愛しい矢央に。




―――ドサッ!


だが、神は以蔵に味方はしてくれなかった。



「岡田以蔵っ、お前も終わりだな」


捕まってしまった。


背中にのし掛かる重みと、首筋にヒヤリとかかる白刃の感触。


「放せっ! 俺はっ……!?」


諦めきれぬと暴れる以蔵の頭は遠慮なく蹴られ、グラリと脳が揺れた。


数人に取り囲まれた以蔵は、冷たい土の上で頬を擦り上げ、前方を見上げた。


足の隙間から見える祭りに賑わう光景。

皆楽しげに、幸せそうに笑っている。


そしてその中に、会いたくてたまらなかった人物を捉えた以蔵は一瞬息を止めたのだ。



揺れる黒と黄金色が混ざった長い髪、愛らしく両手にいっぱいの食べ物を持った少女。


「や……お…」


涙が溢れた。

元気なその様子を見て安堵した。


「や…お…っ」


腕に縄が巻かれる感触に、以蔵はもがく。

ようやく見つけたのに、ようやく会えたのに捕まるなんて…。


「おとなしくしろっ! もう貴様は終わりだ!」


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