駆け抜けた少女【完】
「うっしゃっ! たらふく飲むぞ!」
「あんま飲みすぎると、いざという時ヤバいよ。 左之さん」
「大丈夫だ! 不死身の左之助様たぁ、俺様のことよ!」
「関係ねぇよ、それ」
「私は、食べ物があればいいけどなぁ」
和やかな空気、反対側の路地にはもう意識はない。
過ぎ去って行く矢央に、伸ばしたくても伸ばせない手。
「矢央…矢央っ…」
後少し早く路地から出ていれば、間違いなく矢央に気付いてもらえただろう。
そうすれば、最後に一言くらい交わせたであろう。
いつか故郷に帰れた時、一緒に帰られたらと思えた少女。
笑顔で「いつか連れて行ってね」と言ってくれた少女。
初めて恋心を寄せた少女。
ゆっくりと、姿は見えなくなっていく。
人並みに消えて行く矢央を、以蔵は諦めきれず首を必死に伸ばし、そしてその名を叫んだ。
「矢央ォォォォ!!」
自分は此処にいる。
君を想い、君に会いたいと叫ぶ。
もう一度、君の笑顔が見たいのだと叫んだ。
「…………」
「矢央ちゃん、どうかした?」
立ち止まった矢央を気にした藤堂は、矢央が見つめる先に目を向けた。
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