駆け抜けた少女【完】
それは明け方に近い時に起きた。
突然、空気すら揺らす程の大砲の音が響き渡ったのだ。
―――ドドーンッッ!
「うわっ!? な、なに?」
―――ドドーンッッ!
大砲の音に起こされた状態の矢央は、何が起こったのか分からずあたふたと焦りながら、辺りを見回した。
そこへ頭から、バサッと何かを被された矢央は更に慌てふためく。
「おはようさん。 ほれさっさと着な。 やっとこさ出陣だぜ」
「永倉さんっ? え……」
―――ドドーンッッ!
「きゃっ! だから、さっきからなんなんですかっ?」
大砲の音など聞いたことがない矢央には、この鼓膜を破るような砲撃音に堪えられず耳を塞いだ。
「矢央ちゃん。 これから新撰組は御所に向かう。 とうとう長州の奴らが攻撃を仕掛けてきたみたいだからね」
「間島、恐れている場合ではない。 これから池田屋よりも死傷者が出る恐れがある。 心しているように」
九条川原に到着した時とは比べ物にならない迫力に包まれた組長たち。
そっと耳から手を下ろし、ゴクンと唾を飲み込んだ。
―――バサッ!
頭にかぶったままだった隊服を羽織なおりし、そこにいたのは大砲にビビっていた少女ではなくなっていた。
「うしっ! 二番隊出陣するぞ! 一番隊は二番隊に続けっ!!」
凛々しく立つ矢央を見て安心した永倉は、隊を引き連れ御所へと向かう。
後にも隊は続き、救護隊である矢央は最後尾につき、山崎と共に彼らの後を追いかけた。
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