駆け抜けた少女【完】

御所の中に入った矢央は、あちらこちらに倒れている人たちの生死を確認しながら進んで行った。

敵も味方も関係なく、出来る限りの処置をしていた。


きっと土方に知られたら、敵を治療するなとか怒鳴られるだろうが幸いにして、此処に土方はいないのだから、


「どうか死なないでっ…」


この戦で、命を落とす人が少しでも減るといいと願った。



――――ドドーンッッ!


またしても耳を啄むような大砲の音に、ビクッと肩を揺らす。

怖い! 大砲も、亡骸の中を駆けて行くのも怖い。

けれどたった今、この瞬間にも命をかけて戦っている仲間がいると思えば、震え上がる足に力が入る。



「みんなは何処にいんのっ!?」

走って辿り着いた場所は、鷹司邸。

剣を交える者、銃の撃ち合いなど荒れに荒れていた。

矢央は、ゴクンと喉を鳴らすと鞘から白刃を抜き出した。

人を斬る気はないが、池田屋に向かう前に山南から護身用にと貰った刀で身を守るために。


仲間が傷付くのは嫌だった。

しかし己が傷付くのを見せるのも、また嫌だから己の身を守るために時たま剣を交える。


「クッ! 煙たいっ。 さっきの大砲のせいかっ」

ところで上がる炎のせいで煙が上がり、袖で口元を押さえながら更に進んで行くと


―――バンッ!


「死ねっ! 新撰組めがっ!」

「――――っ!」


気づかなかった。 建物の影から己を狙われていたことを。


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