駆け抜けた少女【完】
まるでスローモーションのように、動きがゆっくりに見えた。
銃の先から上がる煙と、一直線上にいる己の前に被る人影。
「………ぅやっっ!?」
やっと声が出た時、それは銃に撃たれて出た悲鳴ではなく、己を庇い撃たれた者がのし掛かってくる重さに耐えかねて倒れたはずみに出た声だった。
いったい誰が庇ってくれたのか?
それを確かめる前に「こっちだっ」と、腕を引かれ強引に建物のなかへと引きずり込まれてしまう。
「いたたっ……」
埃臭い室内に倒れた体を引きずり込まれて、至る所に擦り傷ができてしまったようだ。
「クッ……」
体を起こそうとする矢央に背を向けている男が、撃たれた腕を押さえながら唸り、
矢央の顔は、さーっと青ざめていく。
「大丈夫ですかっ!? ごめんなさいっ。 わ、私のせい……えっ!?」
「………」
直ぐに手当てをしようと、男に駆け寄った矢央は、男の顔を見て驚いた。
まさかこの男が、敵である矢央を助けるなんてと。
「久坂…さん…。 なんで…?」
久坂玄瑞。 長州藩のこの男は以前、矢央が桂のもとにいた時に知り合っている。
最初から矢央を疑っていた久坂が何故?
「…フンッ! お前だったか…。 味方だと勘違いしてしもうたようだ」
それは明らかに嘘だと言える。
何故なら、矢央は新撰組の隊服を着ていたから。
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