駆け抜けた少女【完】
絶望のなか久坂は矢央と再開し、潜めていた憎しみが瞬時に舞い上がったが、
不思議なことに、矢央と接していると仲間も敵も関係なくなってしまう。
こうしてまた再開するまでは、殺してやりたい程憎らしかったのに、少女の瞳は純粋すぎて攻めきれなくなる。
大した理由があるわけではなく、こうして皆が少女に少なからず引かれ生きてほしいと思ってしまうのか。
と、久坂は思い微かに笑った。
「…お前は戻れ。 此処はもうすぐ潰れるだろう。 あの吉田がお前の命は奪わかったんじゃ、わしも今さら……」
「久坂さんも逃げて下さい! 私より、久坂さんの方が危険なんですよ!」
「な、何をしよる?」
逃がしたい。 吉田は救えなかったが、久坂だけでも救いたいと矢央は傷を癒すため手を負傷した腕にかざした。
お華から得たこの不思議な治癒能力は使うなと言われていたが、今はそれすら頭になかった。
ただ助けたかった。
「久坂さんには、久坂さんを待ってる人がいますよね」
己の腕の回りに広がる明かりに目を見開く。
この少女は何をしようとしているんだと。
「久坂さんが、よく出していた手紙。 あれは奥さんにでしょ?」
「なぜそれをっ?」
久坂と共にいた時、この男はやたらと文を書いていた。
いつも怖い顔をしている久坂が、唯一その文を書いている時だけ穏やかな表情を見せていて、不思議に思った矢央は吉田に聞いたことがあった。
「久坂さんは奥さんを大切にしてるって、吉田さんや桂さんも言ってたんです」
どんどん顔を赤くする久坂に、矢央はニコッと微笑みかけた。
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