駆け抜けた少女【完】
「くっ…だからっ…。 久坂さんの帰りを奥さんは、誰よりも待ち望んでいるはずだから…」
久坂の傷口が塞がるにつれ、久坂が負傷していた場所と同じ場所に傷をつくる矢央。
焼けるような痛みに耐えながら、治療を止めることはなかった。
「生きて帰らなきゃ駄目ですっ! 待ってる人の気持ちも考えて下さいっ」
完全に塞がった傷。
腕の痛みがなくなった久坂は、己の代わりに痛みに耐える矢央を唖然と見ていた。
「なんじゃ…その力は…」
「…秘密です。 それより早くっ」
冷や汗を垂らしながら久坂に逃げるよう促していた矢央に、更なる危険が迫る。
―――ドドーンッッ!
また砲撃が始まり、建物がグラグラと揺れた。
「うわっ……」
崩しかけた体勢を久坂に庇われ、なんとか耐えた矢央だったが腕の痛みに意識が朦朧としはじめる。
すごいなぁ…。 こんなに痛いのに、久坂さんは耐えてたんだ…。
久しぶりに深い傷を追ってしまい血の気が引いていく。
しかし倒れるわけにはいかないと気持ちを奮い立たせると、久坂の腕を取り建物から飛び出した。
―――が、目の前の光景に呆然と立ち尽くす。
瓦礫や廃材、それらに混ざる多くの遺体を目の当たりにし目をそらしてしまう。
「ひどい……」
「…っ…くそッ! くそぉぉッッ!」
逃げ遅れた仲間の亡骸や、敗けを覚悟し自ら命をたった者たちの亡骸を見て悔しさに叫ぶ。
ぐっと握られた手からは、強く握りすぎたがために血が滲んでいく。
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