駆け抜けた少女【完】
膝を折り地に頭を擦り付ける久坂に、何と声をかけてやればいいのか。
「…早く行け」
異様な匂いに目眩を起こし、クラリと揺らぐ矢央を急かす言葉。
久坂は決めていた。
端から逃げるつもりは毛頭ない。
此処へ来たのは最後の望みをかけて来たのだが、それすら逃してしまった久坂には逃げる道など用意されていなかった。
久坂の背中から、その変わることもはない意を感じとった矢央は静かに涙を浮かべた。
また救えないの?
どうして、彼らは自ら命を絶ってしまうの?
「お前を待ってる奴もおるんじゃろが…。 早く、行け」
「…ッッ」
助けたい思いは変わらない。
変わらないが、それを突き通すためには、久坂の強き思いを越えるほど更に強い気持ちを持たなければいけなくて。
そして、その後の責任もとってやらねばないない。
今の矢央には、生きてほしいという思いはあれど、それを強制させるほどの力はなかった。
だから、一切振り返ることなく走りはじめる。
仲間でも友人でもない久坂だったが、もしも違う形で出会えていたなら違った関係を築けていたかもしれない。
それは今更な思いだが、矢央は涙するしかなかった。
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