駆け抜けた少女【完】
「ゲホッ…コホコホッ…」
至る所から上がる炎のせいで、矢央は逃げ道を失う。
どちらに逃げればいいかも分からず、煙たさに息も苦しい。
どうしようっ……!
焦れば焦る程、気持ちが焦りどうすればいいか分からなくなる。
腕の痛みに意識を保つのも限界が近づき、ガクンと膝を落とした。
仲間を助けるために飛び込んで来たのに、まさか己がこのような立場に置かれるとは。
仲間は無事に逃げ出せただろか。
「ハハッ…。 また怒られちゃうかなぁ。 俺たちより、まずは自分の心配しろっ!…てね…ゲホッ」
どうにか気分を変えようと仲間の顔を思い浮かべる矢央だったが、乾いてきていた涙が、またジュワッと浮かんでくる。
煙が頭上をおおい、火の手がすぐそこまで迫ってきたその時だった。
「矢央っ! おいっ! しっかりしねぇか馬鹿野郎っ!」
ぼやける視界のなかに、見慣れた永倉の顔が見てとれた。
倒れた矢央を助け起こした永倉は、水を被りずぶ濡れ状態。
「なが…くらさん…」
「陣に戻ったら山崎が矢央が戻ってこねぇとか言うから。 ったく…また無茶しやがって」
濡れた手が熱を持った頬に触れ、目を細める。
「ケホッ……」
「もう少し我慢するんだぞ」
自分の着物の袖をちぎった永倉は、煙を吸わずにすむように矢央の口にそれを押し付けた。
力の入らなくなった体を軽々と持ち上げ、来た道を振り返る。
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