駆け抜けた少女【完】
「ウッ…風向きが変わりやがったか。 こりゃ火の回りが早くなんな…」
ぼうぼうと京を抜ける風の勢いが増したのを感じ、御所だけではなく京街じたいが危ないかもしれないと焦った。
急いで戻らなければ、自分たちもこの場でお陀仏だ。
「ッッ……」
急ぐために姿勢を低くした瞬間、下から小さな呻き声がしビクッと立ち止まってしまう。
「ど、どうした?」
何かを痛がっていると分かると、矢央を抱えたまま体を確認する。
すると、左腕を支えていた手にヌルッとした感触―――。
「…………」
「お前っ斬られたのかっ!?」
「い、いや…斬られたわけじゃなく…撃たれたというか、なんていうか……」
曖昧な矢央の態度に、勘が鋭い永倉はピンときた。
あの力を使ったな、と。
「…ったく。 早く手当てしなきゃな。 急ぐから、ちゃんと掴まってろよ」
「ふえっ? は…はいっ!」
怒られると思っていたのに、意外にも怒られずにすんだことに安堵するも、なんだか腑に落ちない。
あの永倉が、小言一つ言わないなんてこと今まであったか?
「矢央…」
一番火の勢いが凄かった場所から逃げ出せた永倉は、走りながらも口を開いた。
「心配して俺たちを捜しに来てくれたことは嬉しい。 だがよ、心配なのはお互い様だろ?」
「………?」
下から見上げる永倉の表情は、いつもは見ないような切なげなもの。
視線に気づいたのか、チラッと見下ろした永倉は眉を下げたまま微笑した。
「俺たちが帰る場所、そこでお前が笑顔で待っててくれる方が嬉しいんだぜ? その方が、必ず生きて帰ろうと思える」
「え……」
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