駆け抜けた少女【完】
島原とは、大人の男が疲れを癒やす場所。
そんな説明を受けた矢央の反応は、こうだった。
「女はダメなんですか?」
「駄目だ」
「なんで?」
「駄目なもんは、駄目」
「大人になったら行ける?」
「大人になっても駄目」
「なぁんでぇー?」
「女である以上駄目」
埒があかない攻め門度を繰り返していた。
先に折れたのは、矢央だった。
やはり年長者である永倉の方が、一枚上手といった感じだが。
隣で聞いている沖田からすれば。
まだ矢央さんには言えませんよねぇ。 島原が、女郎買いする場所だなんて…。
クスクスと終始笑顔の沖田だった。
「うらぁ! んなこたあどうでもいい、餓鬼は早く寝ろ」
矢央の納得いかない目に疲れた永倉は、布団の上に転んでいた矢央を布団ごとひっくり返した。
「あふっ!!」
「ほおら、寝た寝た!」
布団をかけ、布団越しに雑にポンポン叩く。
「もうっ! 子供扱いしないでくださいよっ!」
「ガハハハッ! 矢央は、どう見ても餓鬼だ」
「違いますっ!」
「いや、違いねぇなぁ…。 なぁ、左之?」
「おうよ! 見たまんま餓鬼だ、ガハハハッ!」
子供だとバカにする永倉と、大笑いする原田。
三人の声が大きくなっていることに気づいた沖田は、慌てて布団に潜り込んだ。
すると直後、三人の背後に黒い影が浮かび……
―――バシッバシッバシッ!
と、乾いた音と共に三人の「いたっ!」という声が重なる。