駆け抜けた少女【完】
逃げ場は無い。
そう思われた時、矢央は男達が一斉に飛びかかるそのタイミングを見計らい体を小さく折った。
―――カキィーンッッッ!
金属音が響いた瞬間、矢央は折った体をクルリと背後に後転させたのだ。
素早い動きに驚いたのは男達だけではなかった。
危なかった…。
「……っお前達、何をしている!」
その声の主藤堂も、そして隣で既に抜刀している沖田も、矢央の今の動きには目を見張っていた。
そのせいで、助けに割り込むのが多少遅れてしまったのだが。
「あっ! 沖田さん、藤堂さん!助かったぁぁ!」
二人の姿を見た矢央の助かったという言葉が、今にも斬られかかっていることに対してではないことを知る。
「平助さん、話はとりあえず後にしましょう」
「そ、そうだね。 お前達、不逞浪士と見受けした、御用改めさせてもらうっ!」
男達は二人の名を聞いた瞬時、ヤバい状況下に置かされたことに気づいたが、こちらは四人と勝ち誇った顔を見せ、二人に対して構えをとる。
じりじりと押し迫る緊迫感の中、矢央だけはポカーンと口を開きその様子を眺めていた。
これが斬り合い?
時代劇じゃなく?
切羽詰まる中、一人危機感を表さない呑気な少女は無視として斬り合いが始まってしまう。
カキィーン、ザクッと、刃物同士がぶつかり合う音、肉が斬れる音が静かな夜に響き渡った。