駆け抜けた少女【完】
目を綴じることもせず、ただ声を押し殺し涙を流す矢央を部屋の住人達はいたたまれない想いで見守ることしかできない。
彼女はただの人ではない。
そう確信しているのは、あの場に居合わせた沖田と藤堂だけである。
重い空気をどうにかしようと先行を切ったのは、原田だった。
「おうおう、今日の月は綺麗じゃねぇか」
「え? 曇ってるけど」
開け放たれた障子の奥に、薄雲に覆われた空をを見上げ原田の声に藤堂の声が重なった。
声の主は、一斉に向けられた呆れ眼に身を退く。
「え? え?」
「平助ぇ―…なんでお前はいっっつも、場の空気の読めない発言をするのかねぇ?」
「は? なに新八さん?」
この際曇っていようがそんな事はどうでもいいんだよ……と、永倉はため息を吐く。
やれやれと頭を振る永倉に、藤堂は意味がわからない様子。
「ふっ……」
「ほら見てみろ、左之が情けなさの余り肩を震わせてだな―…」
畳に両手をついてプルプルと身体を揺する原田を慰めようと、その肩に手を伸ばたその時……
「ガハハハッ! 平助っ良い良い!確かに曇ってらあ~」
「……………」
何がお前の笑いを誘っているんだ?
突然笑い転げた原田の目の前には、無表情で投げ出された自分の手を見つめた永倉がいた。
「え? なんなのさ、左之さんまで」
藤堂は訳がわからず唇を尖らせた。