駆け抜けた少女【完】
それから数ヶ月後、祖父は浪士に殺されてしまう。
神聖な場である神社で数人の浪士がたむろし、飲めや歌えやの騒ぎ、町娘を拉致しては婦女暴行、目に余るその痴態に神主である祖父はお華を隠して、一人で立ち向かう。
武器を持たない祖父は、すぐさま浪士に斬り殺された。
浪士達が去った後、微かに息をしていた祖父に走り寄りお華は涙に頬を濡らせ嗚咽を繰り返す。
真っ赤に染まったしゃわくちゃな手が、お華に何かを渡そうと天を仰ぐ時、お華は祖父がもう目が見えていないことを知る。
「お…じぃ……ちゃ…」
ぽたぽた、と祖父の頬に滴が落ちては流れていく。
「は…なよ……これを……」
受け取れと渡された"それ"は、赤く光る宝石で、見つめたお華の瞳に赤く映し出されていた。
「この神社の…御守りじゃ……だいだ…い…それを手にするのは……巫女…お主が…それを大切にすれば……かならず…お主を守って…くれる……」
「おじぃちゃんっ、もういいから…ううっ……お…じぃちゃん…」
御利益のある大木と、御利益のある赤石。
お華は祖父が守ってきた二つを託され、祖父の息が途絶える瞬間まで祖父を抱きしめて泣いていた。