駆け抜けた少女【完】
「お華ちゃん、なにしてるの?」
「おじぃちゃんがね、大切なものだから無くさないようにって……」
祖父が亡くなり、お華は近藤家に世話になることになった。
既に近藤家に出入りしていた沖田は、天涯孤独の身になってしまったお華の側を離れないようにしていた。
彼女の無理をして笑う姿が、いつか突然消えてしまうような気がして仕方なかったのだ。
今は誰も住んでいない神社の片隅に空を覆い隠す程に立派な御神木があり、その枝には立派な桜を咲かせている。
「赤石を御守り下さい御神木様」
「え? 何か言った?」
「ううん。 なんでも……」
お華と沖田は、肩を寄せ合い御神木を見上げていた。
この時に、お華は自分の力を赤石に封印していた。
こんな力、やはり持ってはならなかったと桜を見上げる瞳が悲しみに揺れた。
祖父の死を食い止められなかった悲しむ。
「お華ちゃん、行きましょう」
伸ばされた手を握っても、もう未来は見えない。
これでいい。
もう、見たくない。
少女は、未来を知っても誰も救えない力ならいらないと思った。
歯がゆさだけが残る、祖父を救えなかった自分への。
「惣司郎君……」
「ん、なに?」
「私を一人にしないで下さい」
「……わかった。 約束するよ」
沖田は、優しく微笑んだ。