駆け抜けた少女【完】
じりじりと距離を狭めては行くが、卑怯なことにお華を人質にされては為すすべがない。
このままではお華がと危機感が募る。
どうしたものか考える沖田の視界に、男の背後で異様な雰囲気を醸し出す刀が光った。
刀を持てば、お華を守れる。
そう思い立った沖田は、男に砂を投げ当て隙を作ると祠に向かって走った。
それを見たお華は、沖田があの妖刀を持ち出そうとしていることに気づき慌てて叫ぶ。
「その刀を触っちゃ駄目っ!」
「今はそんな事を言ってる場合じゃないっ!」
祠を蹴破り中に入ると、沖田はピタリと足を止めた。
一気に寒さが増したのだ。
今は春で、寒さなど感じるはずがないのに刀の周りだけが異様に寒い。
そして、ゆっくり刀に手を伸ばすと驚いたことに刀の方から沖田の手に吸い尽くような動きをみせた。
「……………」
「惣司郎君っ……!」
叫び声がし、沖田は握り締めた刀ごと飛び出した。
乱れた袖で沖田に手を伸ばし助けを求める。
グッと柄を握り、スーッと刃が姿を現した。
美しく輝く刃に、沖田の目がギラッと輝き目つきが鋭く変貌する。
温和な雰囲気が一変し、沖田を取り巻く雰囲気が冷酷さを増していた。
妖刀に取り憑かれかけている。
そうお華が感じた瞬間、風の向きが変わり―――
――――ザシュ…
「なっ……うがっ!」
油断していた男は、沖田に背中を斬られ痛みにその場転げ落ちた。
「ハァ…ハァ…貴様っ!?」
「よくも汚してな………」
「まっ、待て! 悪かった、俺が悪かった! 女はお前に返すっ」
色を無くした沖田の目が恐ろしくなり、男は態度を変えた。