駆け抜けた少女【完】
原田左之助は大柄だが気さくで正に兄貴肌な色男だったが、昔切腹してみせ一命を取り留めた時に出来た腹の傷、つまり"切腹傷"を酔うと見せびらかすという芸当を持っていた。
長い付き合いの中で幾度も見せられ「俺様は不死身だ!」と、武勇伝として延々に聞かされてきた永倉はこの話題には既に飽きてしまっている。
少し猫っ毛質の髪で襟足部分を結い紐でちょこんと一纏めにした切れ長な目の永倉と、この原田は言わば悪友に近い仲間であった。
女好き喧嘩好き悪戯好きの二十代半ばの二人に、よく共にしているのは藤堂という二十歳の青年である。
さらさらの黒髪とくりっとした猫目のせいか、その整った顔は二人に比べるとまだ幼さが残るが、
「はいはい、二人共大人なんだから恥を晒さないでよ」
意外と根性者である。
年上二人を黙らせると、藤堂はと眉を寄せた。
「どったぁ、平助?」
「……いや、あれ人だよね?」
じっと足下に流れる川を見つめる藤堂の視線を追うようにして背後から川を覗く二人。
そして、三人が目にしたものは……。
「……女……」